引用符

 まずは引用符(クオーテーションマーク)です。

 みなさんは引用符をつける時はどう入力していますか?筆者は日本語を囲う時は“左右組になった全角ダブルクォート”を、英語を囲う時やスマホで書いている時は変換ナシで”左右同じの半角ダブルクォート”を使っています。シングルクォートにも‘左右組になった全角のもの’と’左右同じの半角のもの’があります。(正確な名称や字形はWikipedia参照)

 これをzrjapunct1パッケージなしで、以下のようにして組んでみます。

“全角ダブルクォート(左右違う)”
"半角ダブルクオート(左右同じ)"
‘全角シングルクォート(左右違う)’
'半角シングルクオート(左右同じ)'
クォートの組版結果

 ガタガタになりました。半角ダブルクォートだけは使えそうですが、シングルクォートの方はちょっと惜しい感じですし、全角は組方向(縦向き)は合っていますが一文字分のスペースにおける位置が変です。
 これは別に筆者が書く順番を間違えたのではなく、左右を入れ替えてみてもガタガタのままです。元から縦組みに対応できていないんですね。

 というわけでパッケージ読み込みの後改めて組んでみると、結果はこうなります。

補正後のクォート

 綺麗に横組みになりましたね。“全角ダブルクオート”‘全角シングルクオート’で囲えば横組みに関してはOKです。

 ちなみに半角でこれを実現する方法もあって、その場合はTeX本来のルールに従います。こう書きます:Peugeot-``103”
 右側は普通の、キーボードの「7」の上にある半角のシングルクォート(アポストロフィ)を2つ続けて書き、左側はバッククォート2つを使います。「@」のキーについているやつです。
 半角シングルクォートを使いたい時も同様に、アポストロフィとバッククォートを一つずつ書けば向きが整います。横組みの時に使うものなので、こっちの方が楽という人もいるでしょう。

結果は同じ半角と全角

どちらも結果は同じ

 では縦向きの引用符を入れたい時はどうすればいいでしょう?たいていの書籍ではこうなっていると思います。

縦書き時の引用符

 これは〝ダブルミニュート〟あるいはノノカギと呼ばれるもので、機種依存文字ではあるんですがUnicodeに収録されているので普通に使えます。コードポイントは301D~F。私はいつも「かっこ」という言葉から変換して入力しています。
 これをそのまま原稿中に直書きすれば普通のカッコやカギカッコ同様に、ちゃんと正しい向きで組んでくれます。ただしこの時点ではある恐ろしい陥穽がひそんでおり、筆者の環境ではこう表示されています。

下のダブルミニュートだけ文字化け

初めて見た時は悲鳴を上げた

 この四角の窓は「該当する文字がない」ことを表しています。ないってどういうことだよ……タイプセットはちゃんとできてるのに……と最初は途方に暮れましたが、これはフォントに原因があってのことです。
 今使っているTeXWorksの標準PDFプレビューは、デフォルトでIPA明朝を使って最終的な組版結果を出してくれています。そしてどういうわけか、本当に不可解なことに、IPAフォントには受け側のダブルミニュートが収録されていないんです
 IPAフォントはフリーで膨大な漢字を網羅しているフォントです。オープンソースの商用利用可能なので、紙の本を作って売る時に使ったという人も多いんではないでしょうか。
 これが使えないとなると正直困ります。MS明朝だけは絶対に使いたくないし(権利的にも微妙)、小塚やヒラギノは基本有償というか母製品を買わないと使えないし、他のフリーフォントは漢字をほとんどサポートしていなかったりするし。(最近源ノ明朝が出たけれど)
 実は他にもフォントによって揺れる箇所はたくさんあって、使うフォント次第ではこういう問題が一切起きなかったりします。実際小塚明朝で組んだ時はベタ書きから出力してほとんど支障がありませんでした。
 なので使いたいフォントが決まっている人や、いろいろ変えてみて一番いいのを選びたいという人は「フォント」の項まで行った後で、またこの「約物」のセクションまで戻ってきてください。改めておかしな表示になっている箇所に対策を施すことになります。
 ちなみにTeXで使用フォントを変えるというのはこれはこれでうんざりするほどややこしくて面倒くさい作業です。無事にここに戻ってこられることを祈ります。

 以上を踏まえた上で、IPA明朝でダブルミニュートを表示させる方法に入りたいところですが、これには強力なotfパッケージの挙動が絡んでくるので次項で説明します。何かと言及されることが多いパッケージなので、約物に問題がない人も基本的に使う方針でいてください。

参考

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